「戸隠竹細工」

戸隠竹細工

戸隠竹細工の歴史

戸隠の竹細工の始まりは、奥深い山の厳しい環境から米が作れず竹を年貢として納めたことに起因しています。そして、山に自生する竹という資源を守るため、江戸時代から約400年近く戸隠の中社地区の人にのみ許された仕事でした。
(現在は、旧戸隠村から長野市戸隠になりました。中社区はその中の一部の地区です)

その中で、始めは農具を作り、明治に入ると養蚕が盛んになったことから蚕かご作りが始まりました。昭和の観光化でお蕎麦屋さんが増えると1人前用のそばざるが多くつくられるなど、時代の要請に沿った物作りをして今に続いています。

私が移住した2017年(平成29年)頃はその長い歴史が変わり始めた時でした。

後継者不足から、従事する対象を中社地区から戸隠の全域(旧戸隠村)へと広げようということが決まりはしたものの、職人たちもいざとなると見ず知らずの人に大切な山や仕事を開放していいのかと戸惑いが溢れていました。

状況を知らずにやって来た当時の私は、事態が飲み込めず、先が見えない不安な日々を過ごしていました。今思うと、職人たちの戸惑いは当然のことですし、よく決断できたなと温かいい気持ちで振り返ることができます。

あれから数年経ち、私も職人たちも少しずつ変化しながら、互いを受け入れ前に進んでいます。

そして、戸隠竹細工を仕事にしたいと学びに通う人や移住の準備をしている方が増えています。この緩やかな変化とともに、これからも戸隠竹細工が必要とされ続いて行くことを願っています。



↑戸隠に自生する根曲り竹。雪の重みをいなすためはじめから根っこが曲がって生えてきます。雪と共に生きる人と竹の力強さを戸隠で感じます。




戸隠竹細工とは

戸隠竹細工には3つの条件があり、それをクリアした製品には「戸」のロゴのタグがついています。
1)戸隠に自生する良質な「根曲り竹」を使っていること
2)材料の採取から加工・仕上げまで戸隠中社竹細工生産組合の職人が一環して製作したもの
3)暮らしとともに変わる「風合い」。長く寄り添う「しなやかな丈夫さ」。手に馴染む「使い心地」
を持っていること


↑戸隠竹細工にはこのロゴマークがついたダグがついています。戸隠でかごをご購入の際は参考にしてください

戸隠竹細工は技術や使い心地を大切にしていますが、それ以上に大切にしていることは山仕事だと思っています。春には山の神様に安全祈願をし、初夏には竹細工の材料になる筍を守り、秋には竹採り用の道の整備のため山仕事をし、冬になると外が雪で真っ白な中、腰を据えてかご編みをしています。そして乱獲によって山が荒れることを防ぐため、縁を巻く”巻き竹”、かご本体を作る”作り竹”の「山の口(やまのくち)※竹採りの解禁日」を設けています。私たち竹細工の仕事は、自然の巡りと共に変わらず続いています。

竹は生命力に溢れる植物ですが、筍を採ったり、竹の成長期に藪に入ったり、毎年同じ場所で竹を切ったりすることで新しい竹が生えにくく、竹細工に適した竹が生えにくい森(藪)になってしまいます。

戸隠竹細工にとって”変わらずに続く”ことは、その時代ごとに職人たちが次の代の人たちに竹細工を繋げるため、山と竹を守ってきた証です。先人たちから受け継いだ山と竹を、私たちも変わらずに次の代へつなぐため、今もこの巡りを続けています。



↑左から、毎年2月9日の「山の神祭り」。安全に山仕事ができるように祈願しながら矢を放ちます。5月下旬から始まる「筍番」。毎日、早朝から夕方まで山の中を巡回します。


9月上旬の「道刈り」。これが終わったら竹採りが始まります。一番右は竹の「仕入れ」。竹を背負って山を歩く姿は昔から変わりません。


戸隠竹細工の職人

現在、戸隠竹細工の職人は職歴70年以上の職人から数年の職人まで約30名弱います。その中で、お店を構える職人が数名。それ以外の多くの職人は、製作に専念しています。職人たちは、基本あまり表にでたがりませんが、この多くの職人たちが戸隠の竹細工を支えています。
作り手の気持ちが分かる人が販売してくれるからこそ、職人たちは安心して製作に専念でき、安定した量を作る人がいるからこそお店が維持できる。お互いがいるからこそ、戸隠竹細工は産地として今も成り立っています。

d30名弱の職人がいるといっても主力は80代〜90代。戸隠の竹細工の後継者が足りないのは変わりありません。元々は、一家相伝で親から子へと技術が受け継がれて来ましたが、現在は移住した若手が各職人に弟子入りして学んでいます。弟子入りといっても、職人が受け入れると心を決められる人(意思や人柄など)であること。そして、基本の生活費は竹細工以外で自ら確保することが最低条件です。そして一番大きなハードルは戸隠に移住することです。技術は通って習えますが、竹採りは戸隠中社竹細工生産組合員出ないとできません。そしてこの組合員になる条件が「戸隠に住んでいること」です。

もし、戸隠竹細工の職人にご興味がある方は、移住をする前に生活と環境を自ら整えられるか、ご自身と相談してみてください。その上で何か心配なことなどあれば、お気軽にご相談ください。(contact@kagoya-rourou.com)